短時間労働者への社会保険の適用拡大について

 令和6年10月より社会保険に加入する従業員が常時50人を超える事業所の短時間労働者へも社会保険の加入が義務化されます。対象となる事業所や国の支援策についてまとめてみました。

概要

 通常、社会保険(健康保険・厚生年金)は社会保険適用事業所で週30時間以上働くと加入義務が発生する一方、週30時間未満で働く方は配偶者等の被扶養者となり健康保険料や国民年金の支払いは免除されています。(週30時間未満でも年収が130万円以上になると国民年金・国民健康保険への加入が必要となる場合があります。)
 少子高齢化や人口減少が進む中、国は社会保険の財源確保も兼ねてパートタイマー等の短時間労働者へも社会保険の適用拡大を進めています。

 現在(令和6年1月時点)、常時100名を超える従業員が社会保険に加入している事業所は「特定適用事業所」とされ、週20時間以上(※1)働くパートタイマー等の短時間労働者へも社会保険の加入が義務づけられています。

 令和6年10月からは「特定適用事業所」の要件が拡大され、常時50名(※2)を超える従業員が社会保険に加入している事業所にはパートタイマー(週20時間以上)にも社会保険の加入義務が発生します。

 社会保険に加入することで収入減とならないように働き控え(調整)をするパートタイマーを減らすことで労働力の減少に歯止めをかけようと、国は様々な支援策を発表しています。

(※1)労働時間以外にも収入が月額88,000円以上であることが要件とされます。(月額88,000円以上×12か月分=年収106万円以上となることから「106万円の壁」と呼ばれています)これ以外にも2か月以上雇用されること、学生でないこと等の条件があります。

(※2)社会保険加入者の人数は直近6か月の加入状況で判断されます。

「106万円の壁」支援パッケージ

 令和5年10月以降、新たに社会保険に加入した従業員の収入を増加させる取組を行った事業主へ助成を行うキャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されました。具体的には保険料負担による賃金低下を賃上げによりカバーする取組みや、対象労働者の労働時間を延長する取組が対象となります。いずれも事前に「キャリアアップ計画書」の提出が必要となります。

手当等支給メニュー

 保険料負担による賃金低下を賃上げによってカバーし、既存賃金の15パーセント以上を追加支給する事業主へ助成する「手当等支給メニュー」は最大3年間の助成を受けられる可能性があります。(3年目は賃金の18パーセント以上の賃上げが必要となります。)

労働時間延長メニュー

 所定労働時間の延長により社会保険を適用させる場合(または社会保険を適用させる際に所労働時間を延長させる場合)に事業主に対して助成します。具体的には週間所定労働時間を4時間以上延長する場合や、1時間以上4時間未満の延長と併せて賃上げを行う場合が対象となります。

併用メニュー

1年目に手当等支給メニューに取組み、2年目に労働時間延長メニューに取組みした場合に助成されます。

「130万円の壁」支援対策

 「106万円の壁」支援パッケージの他にも被扶養者の収入が一時的に130万円を超えた場合にも、扶養にとどまる仕組みが用意されています。具体的には配偶者等に扶養されているパート・アルバイトで働く方が繁忙期などの労働力不足を要因として労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となる仕組みです。被扶養者の収入が増えた要因が上記に該当した場合には、被保険者(主として働く配偶者など)の会社に確認することで扶養内にとどまることが出来るかもしれません。

最後に

 社会保険の適用拡大に伴い、本年10月以降にパートタイマーへの社会保険適用が義務付けられる「特定適用事業所」に該当するのか確認が必要となります。(対象となる事業所へは令和6年9月上旬に「特定適用事業所該当事前の知らせ」が送付される予定です)
 対象となる事業所においては、対象予定となるパートタイマーへの説明や意向確認などきめ細やかな対応が必要となります。また、新たに社会保険へ加入する労働者への賃上げや労働時間の延長を行う事業所においては、支援メニューへの該当が当てはまるかなどの準備が必要となります。