初めて従業員を雇用した場合の手続きは?

従業員を雇用する際に事業主が行わなくてはならない手続き

 スタートした事業も軌道に乗り、いよいよ従業員を採用しようとした場合に何をすればいいかわからない事業主の方も多いのではないのでしょうか。サラリーマンであれば会社が行ってくれた手続きも、事業主となった今は自ら行わなくてはなりません。

 手続きを怠ってしまうと法律上のペナルティーや従業員に不信感を抱かれてしまう恐れもありますので注意が必要です。

事業主が行うべき主な手続き

手続名提出先手続きの時期概要
保険関係成立届(労働保険)労働基準監督署(ハローワーク)保険関係の成立から10日以内労災保険、雇用保険に加入するための届け出
概算保険料申告書(労働保険)労働基準監督署保険関係の成立から50日以内に納付労災保険、雇用保険の保険料
雇用保険適用事業所設置届ハローワーク雇用保険の適用事業となってから10日以内雇用保険が適用されるための届け出
雇用保険被保険者資格取得届ハローワーク雇用保険加入条件を満たす従業員を採用した月の翌月10日まで従業員を雇用保険へ加入させるための届け出
健康保険・厚生年金保険
新規適用届
年金事務所社会保険加入条件を満たす従業員を採用してから5日以内健康保険、厚生年金加入の届け出
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届年金事務所社会保険加入条件を満たす従業員を採用してから5日以内従業員を健康保険、厚生年金へ加入させるための届け出
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書税務署従業員の雇用から1ケ月以内従業員へ支払う給与から税金を徴収し納付するための届け出

以下、これらの手続きについて詳しく説明していきます。

保険関係成立届(労働保険)

 労働保険には業務上の災害に対して治療費などを給付する労災保険と労働者へ失業保険を給付したり、事業主へ雇用関係の助成等を行う雇用保険から成り立ちます。いずれの保険も一定の場合を除き、加入が義務付けられています。保険関係成立届を提出することで労働保険番号が付与されます。

 事業主には労働者が業務が原因による怪我を負った場合や、疾病にかかった場合等にその損害を補償する責任が課せられています。この補償責任を代行するのが労働保険(労災保険)です。労災保険とは、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害又は死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度となります。

 労働者を一人でも雇用する事業主には労災保険への加入が義務付けられており(※)、加入を怠ると罰則も設けられています。労災保険は一人でも労働者(正社員・パート・アルバイトを問いません)を雇用する場合には加入する必要があります。

 労働保険は(労災保険・雇用保険)は事業所単位で加入する必要があります。複数の店舗を構える場合には、それぞれの店舗ごとに労働保険の成立届を提出することが求められます。しかし、一定の場合には統括する事業所で一括して保険の適用を受けることも可能となります。

 ※個人事業の農業で常時使用する労働者が5人未満の場合は暫定的に加入義務が免れています。

概算保険料申告書(労働保険)

 労働保険(労災保険・雇用保険)に加入するためには保険料の納付が必要となります。前段の保険関係成立届を提出するのと同時に概算保険料申告書を提出します。労働保険は新規適用の場合は適用の月から当該年度の3月までの保険料を概算で納付し、翌年に確定保険料(4月から3月分)を清算する仕組みとなっています。
 以後は毎年6月から7月にかけて翌年度の概算保険料と前年度の確定保険料を申告します。(前年に見込みで納付した概算保険料が確定保険料に満たない場合には、概算保険料と確定保険料の差額分と翌年度の概算保険料を納付し、概算保険料が確定保険料より多い場合には翌年度の概算保険料から前年に概算払いした超過分を差し引いた保険料を納付することもできます。)

 労働保険料(労災保険)は雇用する労働者へ支払った給与や賞与等の総額に保険料率(事業の種類ごとに決まる)をかけて計算します。労働保険料(雇用保険)の場合は雇用保険に加入する労働者へ支払った額に雇用保険料率をかけて算出します。保険料は労災保険が全額事業主負担、雇用保険は一部労働者も負担します。

雇用保険適用事業所設置届

 前段で記載しました保険関係成立届(労働保険)を提出すると、従業員を雇用保険に加入させることが出来るわけではありません。従業員を雇用保険へ加入させるためには、雇用保険適用事業所設置届を管轄のハローワークへ提出するとともに、次に説明する雇用保険被保険者資格取得届を提出する必要があります。

雇用保険被保険者資格取得届

 雇用保険被保険者資格取得届は雇用保険に加入させる労働者を採用した場合に届け出を行うことで、従業員を雇用保険へ加入させることが出来ます。提出期限は採用した月の翌月10日までとなります。例えば、6月16日に採用した場合は7月10日まで、7月1日に採用した場合は8月10日が提出期限となります。

 採用した従業員が雇用保険加入の対象となるかについては、雇用契約書や就業規則等で定めた働き方が次の1及び2をそれぞれ満たせば雇用保険へ加入させる必要があります。その際、本人に加入の意思がなくても加入させなければなりません。

1.一週間の労働時間が20時間以上であること。
2.雇用する期間が31日以上であること。

健康保険・厚生年金保険新規適用届

 有限会社や株式会社等の法人や常時5人以上の従業員を雇用する個人事業主は、一定の条件を満たす従業員を健康保険、厚生年金保険に加入させる必要があります。特に法人の場合は従業員が社長一人であっても一定の収入があり、常勤性があれば加入が必要となります。
 個人事業主であっても、常時5人以上の従業員を雇用する事業であれば、農林漁業や飲食、旅館業等のサービス、神社仏閣業等を除いて、強制適用事業に該当するため、新規適用届を提出する必要があります。
 新規適用届の提出や、後段で説明する資格取得届の提出を怠り、本来であれば健康保険・厚生年金保険に加入させるべき従業員が未加入の場合は、年金事務所の立ち入り調査等で本来加入すべき時期にさかのぼって保険料を負担する遡及適用となる場合もあります。

 会社や事業が強制適用事業に該当する場合は5日以内に新規適用届を提出する必要があるので注意が必要となります。

健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届

 健康保険・厚生年金保険が強制的に適用となる株式会社等の法人や常時5人以上の従業員を雇用する個人事業主は、一定の従業員を採用した場合には健康保険・厚生年金保険へ加入させる必要があります。

加入の条件は次の通りとなります。

1.週の労働時間及び月の労働時間がその事業所で働く労働者(フルタイム)の3/4以上である者         
                      ※通常の強制適用事業所
2.週所定労働時間が「20時間以上」かつ月額賃金が8.8万円等の一定の要件を満たす者 
                      ※特定適用事業所(被保険者が101人以上の事業所)

 初めて従業員を採用する場合は、上記1の条件に該当する従業員は加入させる必要があります。ここで注意が必要なのが、加入させる従業員が正社員でなく、アルバイトやパートとして採用する場合でも、フルタイム従業員の3/4以上働くのであれば、加入させる必要があるということです。

 上記に該当する従業員を採用した場合には5日以内に資格取得届を提出する必要があるので、注意が必要となります。

給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

 最後は税務関係の手続きとなります。会社等を設立して従業員を採用し給与の支払者となった事業主が、事務所を開設(移転又は廃止した場合も含む)した場合に、その旨を所轄税務署長に対して届け出る手続です。この手続きは、既に「個人事業の開業届」を提出している個人事業主の場合には提出の必要はありません。
 提出期限は開設の日から1か月以内となります。

まとめ

 ここまでご覧いただいたように、従業員を採用したときの手続きは労働保険、社会保険など制度が複雑になっています。手続き漏れがないようにすることが大切となります。
 特に労災保険・社会保険は労働者にとっても関心が大きい内容です。効果的な採用活動を行う上でも、適切に対応していくことが必要となります。 

 

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